大人の音読~絵本専門士が厳選!声に出して味わう絵本~

脳を活性化すると評判の「音読」。小学生の宿題というイメージが強いですが、ストレス解消や顔回りの筋肉を鍛えるなど、大人にも効果的なんです。

特に絵本は★読み時間がちょうど良い★ハッピーなお話が多い★絵をガイドに読み方を工夫できる、、など、音読初心者さんにおすすめ。 読み聞かせボランティア歴17年、絵本専門士ふじむらゆきこが4月から全12回で音読を楽しめる絵本をご紹介します。


2025年9月

今月の1冊~

ひいひい言いながら

時をさかのぼる7分間

「おじいちゃんのおじいちゃんの

 おじいちゃんのおじいちゃん」

まだまだ暑い日が続きますが、着実に日は短くなっています。盛岡では秋の虫が鳴きだし、エノコログサやメヒシバがぐんぐんと背を伸ばしてきました。関東~西日本の暑さも早く落ち着いてほしいです。

さて、9月の1冊は敬老の日にちなんで命のつながりを感じさせるこの絵本を選びました。

作者はユーモアたっぷりの作品にファンが多い長谷川義史さん。息子さんとのやりとりをもとにした絵本デビュー作です。

主人公の「ぼく」は5歳の幼稚園児。ぼくのお父さんは38歳の釣り好きさん。「ぼく」のお父さんのお父さんは?白いおひげのおじいちゃん!じゃあおじいちゃんのお父さんは??軍服を着たひいおじいちゃん!・・・じゃあひいひいひいおじいちゃんのひいひいひいひいおじいちゃんは???という具合に、ご先祖様が次々に登場していきます。

ひいひいひいおじいちゃんのひいひいひいひいおじいちゃんなんて、一読しただけでは関係性がわかりませんが、長谷川さんは何代さかのぼると何時代になるかちゃんと計算をしていて、その当時の装い、街の様子をあわせて描いています。店の名前、当時の流行などあれこれ発見がありますよ!

さて、この絵本の泣き所、いえ、笑いのツボは、さかのぼるほど増えていく「ひい」の数。すべて丁寧に読むと9分10分くらいかかるかもしれません。私は・・・雰囲気で読んでおります💦読み聞かせに使う時は、読み始めはゆっくり、だんだん早くして、最後は「ひい~~~~~~~~~~」と伸ばしながら抑揚をつけ、指でひいひいひいひい・・の言葉の列を素早くなぞっていく、と子ども達もなんとなく納得してくれますよ(笑)

ご先祖様をたどっていって最後にいきつくところに「ここまで!?」と驚きつつ、私がとても好きなのは、それを受けて未来をみつめる「ぼく」の言葉。この先も続く大きな時の流れを感じ、大げさですが、生きていこうと思えます。

・・わたしはだれのおばあちゃんになるのかなあ☆

『おじいちゃんのおじいちゃんの

 おじいちゃんのおじいちゃん』

長谷川 義史 作

2000年 / BL出版


2025年8月

今月の1冊~

ドキュメンタリーを見るような

16分16秒

8月、夏本番!と言いたいところですが、すでに異常な暑さでぐったりの藤村です。夏休みに入った近所の小学生を見ても、暑すぎて日中は外に出ない、学校でのプール遊泳は中止など、昭和平成の夏休みとは違う過ごし方になってきているようです。

でも、夏には冒険が似合います!子ども達には普段できないことに挑戦してほしいし、大人だって心沸き立つ何かを求めたくなる夏であって欲しい。今日は冒険心をくすぐられる1冊を紹介します。

表紙写真を見て「古本?」と思った方、いいところをついてます。この物語は、チャールズ・リンドバーグが世界で初めて飛行機で大西洋横断に成功した1927年より少し前のこと。

100年の月日を感じさせる画風が心憎い表紙を開くと、ネズミの大冒険の始まりです。

人間の“ある発明品”のために仲間を失ったネズミが、飛行機を造って新天地アメリカに行こうと思い立ちます。このネズミ、いつも図書館に忍び込んで様々な本を読んでいたんです。設計図を描き、部品を組み立てては失敗し、さらには敵にも狙われ…果たしてその結末は?

96ページという大作絵本ですが、短い文章の積み重ねでテンポよく話が進みますし、絵だけのページも多く、思ったよりもあっという間に読めてしまいます。その分、じっくり絵を見て楽しんでください!セピアを基調とした色使いで派手さはないのですが、緻密で写実的な絵と様々な構図に引き込まれます。

驚くのは、これが作者のデビュー作であり、なんと「卒業制作作品」だということ!

この絵本に感動した糸井重里さんがwebサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」で作者のクールマンさんと対談しており、その中に制作秘話や絵のポイントがたくさん出てくるのであわせてご覧ください!何場面かの絵も見ることができますよ。

「ちいさなネズミのおおきな物語  絵本『リンドバーグ』の作者と話す」

― 小さな者でも大きなことを成し遂げる ・・・

作者が込めたこのメッセージを胸に絵本を開き、つかの間、日常から離れて心にガソリン補給しましょう!明日からまた走り出せますように。

『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』

トーベン・クールマン 作

金原 瑞人 訳 

2015年 / ブロンズ新社


2025年7月

今月の1冊~

育ち、傷つき、立ち上がる。

泥棒の心の軌跡を描く6分30秒

「どろぼうがないた」

2025年も折り返し、下半期が始まりました。日本の半分はすでに梅雨が明け、岩手でも夏に咲くはずのユリがすでに花開いていて「うそでしょ?」とつぶやいてしまうこの頃。そんな花つながりで選んだのが今月の絵本です。表紙に描かれた色とりどりのユリ、綺麗ですよね。

タイトルの通り、どろぼうが主人公。孤独でも平気、一度も泣いたことがないという冷たい心の泥棒が盗みに入った家から持ち出した小さな箱。そこには何も生えていない鉢植えが入っていました。

ここから、泥棒の心に、そして生活に変化が生まれていくのですが、この個人的な変化が第一弾とすると、そんな個人の変化を大きく呑み込む社会・国家の変化が第二段という二段構えの構成で、理不尽さを感じるラストを迎えます。

こういうとなんだか難しく聞こえますが、紡がれた文章はシンプルでわかりやすく、異国調のタッチ(まるで外国人が描いたよう!)や場面にあわせた繊細な色使いが話へ引き込むので、子どもでも大切なことを感じ取れる絵本です。

そして、注目してほしいのが演出の巧みさ。理不尽に思えたお話に続きがあるのです。ラストのページの次に「奥付」という本の情報を記載したページがありますが、ここに小さな絵が描き込まれています。本文中に登場しているので、それが何か気づくのに時間はかからないでしょう。次に裏表紙を見てみると・・その「何か」が「どうなったのか」が描かれています。さらに、裏表紙をたどっていくと表紙とつながり、そこで初めて表紙の絵の意味がわかるという仕掛けになっています。ぜひ本を広げて裏表紙と表紙が一枚の絵になっているのを確認してくださいね!

「本」の仕組みを最大限に生かして物語を形作り、静かに心の再生や反戦をうたう絵本。いまこそ声に出して読み、不穏な動きの多い世界情勢に流されないように気持ちを強く持ちたいものです!!

『どろぼうがないた』

杉川としひろ 作

ふくだじゅんこ 絵

2007年 / 冨山房インターナショナル


2025年6月

今月の1冊~

天使のお仕事を見守り

幸せな気持ちを受け取る18分

「ライオン」

6月になりました。皆さんご存知の通り今月は祝日が一つもありません(涙)それだけ週末(あるいはシフトの休日)が待たれます。アクティブに出かける時間とゆっくり休む時間のメリハリをつけながら乗り切りたいですね!

今月紹介するのは、そんなお休みの日にゆっくりと楽しめて、心がなんとも晴れやかになる絵本。今年の2月に出版されたばかりです。

舞台は高い高い空の上にそびえる宮殿。その中の絵画室ではたくさんの天使たちがある仕事に精を出しています。金色の筆を持った天使たちは動物の名前を思いつくと、その名にあわせて姿かたちを創造し、地上に送っているのです。そんな工房の室長をつとめる天使フォアマンは、いわば管理職ですからしばらく絵筆をとることがなかったのですが、ある日急に素敵な名前を思いつき、どうしても動物を創造したくなりました。その名前は・・・ライオン!さて、描き上げられたのはどんな形でどんな色の動物でしょうか??

通常の絵本より分量の多い40ページで文字数も多く、童話に近い印象ですが、ペンで描かれたモノクロの天使の姿とカラフルに彩られた動物画が話をひっぱり、盛り上げます。この絵本、アメリカで出版されたのはなんと1955年!発掘してくれた翻訳家のこみやゆうさん、訳してくれた間崎るり子さん(なんと御年88歳だそうです!)、そして、出版してくれた瑞雲舎さんお三方のお陰で70年の月日を経て日本語で楽しめるようになりました。

百獣の王ライオンは現実でも絵本の世界でも人気ですが、そのライオンが存在するのはフォアマンの悪戦苦闘のおかげなのねと微笑んでしまうこのお話、フォアマンが最後にとった行動にはむしろ大人の方が共感して心震わせるかもしれません。そんな達成感を目指して、私達も気持ち新たに今日一日を過ごしましょう!

『ライオン』

ウィリアム・ペーン・デュボア 文・絵

まさき るりこ 訳

2025年 / 瑞雲舎


2025年5月

今月の1冊~

2分10秒で「わたしとなかよし」

子どもにも大人にも響く絵本

「わたしとなかよし」

新年度の緊張をふわっとゆるめるゴールデンウイーク。今年は近場へのお出かけが主流のようですが、みなさんは楽しい時間を過ごしましたか?

さて、そんなお休みのあとに心配されるのが5月病。新しい環境でのストレスや疲れがたまり、心身の不調が生じる状態です。対策としては、食事や睡眠を見直す、リラックスする時間を作るなどがあげられますが、リラックスには絵本音読がおすすめ!今月の1冊は、気づきと元気を与えてくれるお話です。

主人公の女の子、笑顔と両手をあげたポーズからも元気で明るい雰囲気が伝わりますね。

この女の子を元気にしてくれる、すてきな友達は・・「わたし」なんです。

お話は女の子の一人語りで進み、仲良しの自分とどう過ごすか、大好きな自分のためにどんな事ができるかがカラフルでユーモアのある絵とともに紹介されます。個人的には、ひたすらポジティブな場面を重ねるのではなく、上手くいかない時、元気のない時の様子が描かれているところもおすすめの理由です。

可愛らしい絵とわかりやすい文章で子ども向けかと思いきや、「自分を大切にする」ことを忘れがちな大人が読むとはっとさせられる場面があるかも。実際、レビューなどでは「子どもに読み聞かせたが親の自分に刺さった」などの感想が多く寄せられています。それはきっと、社会的な「わたし」のほかに、子どもの頃から変わらない核としての「わたし」がいることを理解しているからなのですね。

自分にはいつだって味方がいる。そう思えたら何だか心が温かくなるし、力が湧きます。ぜひこの絵本でもう一人の「わたし」のことを思い出してください。その「わたし」と二人三脚で5月病も軽やかに乗り越えていきましょう!!

『わたしとなかよし』

ナンシー・カールソン 作

なかがわ ちひろ 訳

2007年 / 瑞雲舎


2025年4月

今月の1冊~

読み時間9分ちょっと。

盲目の男性と小学生の交流を描く

実話からうまれた絵本!

「バスが来ましたよ」

新年度のスタートです!明るくなった日差しのもとで服も気持ちも身軽になるこの時期は、年度の切り替えにもぴったりのタイミングなんだなぁと今更ながら感心しています(笑)

今月はそんなスタートにさわやかであたたかい風が吹き込むお話を紹介します。

お話の語り手は表紙中央に描かれた男性。病気から全盲となり、白杖を頼りにバス通勤することになった男性の不安と心細さを和らげたのは、バスの乗り降りを助けてくれる小学生の女の子でした。その思いやりの心は姉から妹へ、その友達へと受け継がれ、男性は定年まで勤めあげることができたのです・・・。和歌山市の公務員、山崎さんが感謝をこめてこの体験をつづった文章はコンクールで大賞を受賞し、絵本化へとつながりました。

絵を描いたのは松本春野さん、実は2月に講演会で盛岡にいらっしゃいました。祖母である画家のいわさきちひろさんのこと、練馬にあるちひろ美術館で育った日々の様々なエピソードに加え、この絵本についてもお話がありました。読者に「絵を読んでもらう」という思いで一場面一場面考え抜かれた絵の意図についてお話いただき、深く感動しました。私も毎月絵本の勉強会を開いていますが、「絵を読む」ってとても楽しいんですよ。ぜひ、ページをめくりながら「どうしてこういう描き方をしたのかな」と深読みしてみてほしいです。

小学生の女の子が勇気をもって踏み出したやさしさの一歩。つながっていくバトン。私たち大人が何かを気にして躊躇してしまう、そんな見えないハードルを子どもは軽々と飛び越えるのですね。さあ、私達もバトンを受け取って、新しい季節を自分も周りも心地いいものにしていきましょう♪

『バスが来ましたよ』

由美村 嬉々 作

松本 春野 絵

2022年 / アリス館

PAGE TOP