大人の音読~絵本専門士が厳選!声に出して味わう絵本~

脳を活性化すると評判の「音読」。小学生の宿題というイメージが強いですが、ストレス解消や顔回りの筋肉を鍛えるなど、大人にも効果的なんです。

特に絵本は★読み時間がちょうど良い★ハッピーなお話が多い★絵をガイドに読み方を工夫できる、、など、音読初心者さんにおすすめ。 読み聞かせボランティア歴17年、絵本専門士ふじむらゆきこが4月から全12回で音読を楽しめる絵本をご紹介します。


2025年6月

今月の1冊~

天使のお仕事を見守り

幸せな気持ちを受け取る18分

「ライオン」

6月になりました。皆さんご存知の通り今月は祝日が一つもありません(涙)それだけ週末(あるいはシフトの休日)が待たれます。アクティブに出かける時間とゆっくり休む時間のメリハリをつけながら乗り切りたいですね!

今月紹介するのは、そんなお休みの日にゆっくりと楽しめて、心がなんとも晴れやかになる絵本。今年の2月に出版されたばかりです。

舞台は高い高い空の上にそびえる宮殿。その中の絵画室ではたくさんの天使たちがある仕事に精を出しています。金色の筆を持った天使たちは動物の名前を思いつくと、その名にあわせて姿かたちを創造し、地上に送っているのです。そんな工房の室長をつとめる天使フォアマンは、いわば管理職ですからしばらく絵筆をとることがなかったのですが、ある日急に素敵な名前を思いつき、どうしても動物を創造したくなりました。その名前は・・・ライオン!さて、描き上げられたのはどんな形でどんな色の動物でしょうか??

通常の絵本より分量の多い40ページで文字数も多く、童話に近い印象ですが、ペンで描かれたモノクロの天使の姿とカラフルに彩られた動物画が話をひっぱり、盛り上げます。この絵本、アメリカで出版されたのはなんと1955年!発掘してくれた翻訳家のこみやゆうさん、訳してくれた間崎るり子さん(なんと御年88歳だそうです!)、そして、出版してくれた瑞雲舎さんお三方のお陰で70年の月日を経て日本語で楽しめるようになりました。

百獣の王ライオンは現実でも絵本の世界でも人気ですが、そのライオンが存在するのはフォアマンの悪戦苦闘のおかげなのねと微笑んでしまうこのお話、フォアマンが最後にとった行動にはむしろ大人の方が共感して心震わせるかもしれません。そんな達成感を目指して、私達も気持ち新たに今日一日を過ごしましょう!

『ライオン』

ウィリアム・ペーン・デュボア 文・絵

まさき るりこ 訳

2025年 / 瑞雲舎


2025年5月

今月の1冊~

2分10秒で「わたしとなかよし」

子どもにも大人にも響く絵本

「わたしとなかよし」

新年度の緊張をふわっとゆるめるゴールデンウイーク。今年は近場へのお出かけが主流のようですが、みなさんは楽しい時間を過ごしましたか?

さて、そんなお休みのあとに心配されるのが5月病。新しい環境でのストレスや疲れがたまり、心身の不調が生じる状態です。対策としては、食事や睡眠を見直す、リラックスする時間を作るなどがあげられますが、リラックスには絵本音読がおすすめ!今月の1冊は、気づきと元気を与えてくれるお話です。

主人公の女の子、笑顔と両手をあげたポーズからも元気で明るい雰囲気が伝わりますね。

この女の子を元気にしてくれる、すてきな友達は・・「わたし」なんです。

お話は女の子の一人語りで進み、仲良しの自分とどう過ごすか、大好きな自分のためにどんな事ができるかがカラフルでユーモアのある絵とともに紹介されます。個人的には、ひたすらポジティブな場面を重ねるのではなく、上手くいかない時、元気のない時の様子が描かれているところもおすすめの理由です。

可愛らしい絵とわかりやすい文章で子ども向けかと思いきや、「自分を大切にする」ことを忘れがちな大人が読むとはっとさせられる場面があるかも。実際、レビューなどでは「子どもに読み聞かせたが親の自分に刺さった」などの感想が多く寄せられています。それはきっと、社会的な「わたし」のほかに、子どもの頃から変わらない核としての「わたし」がいることを理解しているからなのですね。

自分にはいつだって味方がいる。そう思えたら何だか心が温かくなるし、力が湧きます。ぜひこの絵本でもう一人の「わたし」のことを思い出してください。その「わたし」と二人三脚で5月病も軽やかに乗り越えていきましょう!!

『わたしとなかよし』

ナンシー・カールソン 作

なかがわ ちひろ 訳

2007年 / 瑞雲舎


2025年4月

今月の1冊~

読み時間9分ちょっと。

盲目の男性と小学生の交流を描く

実話からうまれた絵本!

「バスが来ましたよ」

新年度のスタートです!明るくなった日差しのもとで服も気持ちも身軽になるこの時期は、年度の切り替えにもぴったりのタイミングなんだなぁと今更ながら感心しています(笑)

今月はそんなスタートにさわやかであたたかい風が吹き込むお話を紹介します。

お話の語り手は表紙中央に描かれた男性。病気から全盲となり、白杖を頼りにバス通勤することになった男性の不安と心細さを和らげたのは、バスの乗り降りを助けてくれる小学生の女の子でした。その思いやりの心は姉から妹へ、その友達へと受け継がれ、男性は定年まで勤めあげることができたのです・・・。和歌山市の公務員、山崎さんが感謝をこめてこの体験をつづった文章はコンクールで大賞を受賞し、絵本化へとつながりました。

絵を描いたのは松本春野さん、実は2月に講演会で盛岡にいらっしゃいました。祖母である画家のいわさきちひろさんのこと、練馬にあるちひろ美術館で育った日々の様々なエピソードに加え、この絵本についてもお話がありました。読者に「絵を読んでもらう」という思いで一場面一場面考え抜かれた絵の意図についてお話いただき、深く感動しました。私も毎月絵本の勉強会を開いていますが、「絵を読む」ってとても楽しいんですよ。ぜひ、ページをめくりながら「どうしてこういう描き方をしたのかな」と深読みしてみてほしいです。

小学生の女の子が勇気をもって踏み出したやさしさの一歩。つながっていくバトン。私たち大人が何かを気にして躊躇してしまう、そんな見えないハードルを子どもは軽々と飛び越えるのですね。さあ、私達もバトンを受け取って、新しい季節を自分も周りも心地いいものにしていきましょう♪

『バスが来ましたよ』

由美村 嬉々 作

松本 春野 絵

2022年 / アリス館