大人の音読~絵本専門士が厳選!声に出して味わう絵本~

脳を活性化すると評判の「音読」。小学生の宿題というイメージが強いですが、ストレス解消や顔回りの筋肉を鍛えるなど、大人にも効果的なんです。

特に絵本は★読み時間がちょうど良い★ハッピーなお話が多い★絵をガイドに読み方を工夫できる、、など、音読初心者さんにおすすめ。 読み聞かせボランティア歴16年、絵本専門士ふじむらゆきこが4月から全12回で音読を楽しめる絵本をご紹介します。


今月の1冊~

読み時間11分

「やまなし」

今年の夏も暑さと豪雨、かつては異常気象だったものが、もはや通常運転となった感があります。でも、9月に入ると確実に日は短く、暑さは和らいでいきます。今月の1冊は、空気が澄んでいく秋に読みたい宮沢賢治の童話絵本「やまなし」です。賢治さん独特の言葉のリズムやオノマトペの面白さは、音読で味わうのが一番です。

「クラムボンは笑ったよ」というセリフがあまりにも有名なこの童話、国語で習った記憶のある方がいらっしゃると思います。実は、岩手のほとんどの小学校が採用している教科書(6年生)に掲載されたのが昭和46年のこと。ということは、岩手では現在の12歳から65歳くらいの方が、大体一度は読んでいることになります。

でも、どんな話だったか思い出せる方は少ないかもしれませんね。そこで、大人になった今改めて、絵をガイドに、ある沢を舞台に起こる自然の摂理~命のつながりを、蟹の兄弟と共に見て、感じてみましょう。教訓めいたところがなく、起承転結もはっきりしないお話は、言葉から感じたことを自身のこれまでと重ねて味わう、ゆったりした読み方が似合います。

さて、この「やまなし」は異なる出版社、画家による7冊の絵本が出ています!ざっと調べただけなので、それ以上かもしれません。冒頭にあげた絵本はスクラッチ技法という、版画に近い技法で描かれた「画本」。抑えた色使いと細かな線でつくられる世界が想像力を刺激します。

ほかにも、水の透明感が際立つ水彩や油彩の絵本、蟹の表情がユーモラスな絵本から、鑑賞の解説がある絵本などそれぞれ特色があるので、数ある中からお好みの一冊を選んで楽しんでくださいね!

『やまなし』

宮沢賢治 作

小林敏也 絵

2013/好学社 ほか出版多数


今月の1冊~

読み時間4分30秒

寝苦しい夜に、関西弁が効いてるファンタジー

「お月さんのシャーベット」

梅雨が明けると猛暑の夏。これから寝苦しい夜が続きますね(汗)。ネッククーラー、冷感素材など様々なグッズが店頭に並んでいますが、今月は暑さ対策に加えてほしい絵本をご紹介します!

ある夏の夜、あまりの暑さにお月さんがぽたぽたと溶け始めてしまいました。それに気づいた団地(?)の班長のおばあちゃんは、明るく光る月の雫を集めて冷やし固めてみることに。食べるとどうなる?食べたあと何が起こる?タイトルはヒンヤリ美味しそう、お話はほんわりあったかな1冊です。

この絵本の見どころ、いえ、「読みどころ」の一つが、長谷川義史さんによる関西弁の日本語訳。≪どうしようもあらへん≫暑さとか、≪つめとうてあま~い≫シャーベット、なんて語られると、標準語よりも雰囲気が伝わってきませんか?

そしてもう一つ、冒頭から絵本絵本といってはいますが、この本、実は絵ではなく写真の本。しかも、登場人物の紙人形や舞台の団地(?)と各部屋の家具調度は、すべて作者ペクさんの手作りなんです。スタジオでの製作過程はこちらで見ることができます。

↓↓

(音量にお気を付けください)

ブロンズ新社公式チャンネル 絵本『お月さんのシャーベット』メイキングビデオ

東北人の私たちが関西弁を音読?ハードルが高いわ~と感じる方もいらっしゃるかもしれません。けれど、「お月さんを食べる」なんていう心をくすぐるテーマですから、レモン味かパイン味かと妄想しながら楽しく読めますよ。

暑さが残る夜、お風呂上がりや寝る前に読んで、体も心も涼めてくださいね!

ほな、おやすみなさい!

『お月さんのシャーベット』

ペク・ヒナ 作

長谷川義史 訳

2021年 / ブロンズ新社


今月の1冊~

読み時間20秒から10分まで

幾通りもの組み合わせで今の気持ちをケアできる

「あいうえおのきもち」

岩手・盛岡が梅雨入りして1週間。洗濯物は乾かないし、通勤時は混み合うし、やれやれとため息をつきたくもなりますが、雨の音を聞きながら絵本を読む、その時間はちょっとだけ嬉しくもあります。

さて、今月の絵本、というよりこれは詩画集?

あ・い・う・え・お。文字の響きや形にインスピレーションを得た短い詩とイメージをふくらます絵が「あ」から順番に並びます。「く」の形ってそういえば・・「ち」の響きってそういうことなのかな・・クスッとしたりドキッとしたり、読み重ねるうちに様々な感情がわいてきます。

作者のひろかわさん、私は幼児向けのはっきりとしたイラストを描く印象だったのですが、こちらは詩の邪魔をしない淡く優しい水彩画。画風を使い分けられるってさすがですね。

全部通して音読しても10分少々ですが、詩の内容によって「ほんわかの文字」「せつない文字」などグループ分けしておき、その日の気分にあったページを読む方法がおすすめ。好きな言葉や自分の名前を1グループとして読んでみるのも面白いんですよ。楽しみは無限大です。

さて、こんな素敵な絵本ですが、そして、皆さんに手に取ってもらいたいと紹介していますが、実はこの本、すでに絶版しており書店では手に入りません(涙)中古書店で見つけたら即買い、図書館で見つけたらぜひ借りてみてください。よい本が忘れ去られることのないようにお伝えしていくのも仕事かな、なんて思っています。

『あいうえおのきもち』

ひろかわさえこ 作

2011年 / 講談社


今月の1冊~

読み時間12分、

生きづらい世の中だから息抜きを!

「としょかんライオン」

6月になりました!台風1号が発生して、これからしばらくは梅雨のじめっと感に悩まされますが、今月は気持ちだけでもさわやかに♪とこの絵本を選びました。

門前に二頭のライオンが構える図書館(その様子から、モデルは世界で最も有名な図書館の一つ、ニューヨーク公共図書館といわれています)に、ある日1匹のライオンがやってくるところから物語が始まります。

皆さんご存知のように、図書館には「きまり」がたくさんありますよね。ライオンは「きまり」を守れるの?そもそもライオンは図書館に入っていいの??そんな心配をよそに、優しく賢いライオンは迎え入れられ、いつの間にかみんなの人気者に。ところがある日、不測の事態が起こってルールを破ってしまったライオンは、図書館から姿を消してしまいます・・。

ストーリーの展開は王道ですが、解放感と安心感のあるラストは大人が読んでも深くうなずけます。何のためにルールがあるのか意味と目的を理解していないと、私たちはルールに縛られたり、ルールにおんぶして自分での判断ができなくなるのかもしれません。また、ライオンを何かの比喩として深読みもできそう。そういう世界の広げ方も、様々な経験をした大人ならではですね。

さて、そんな絵本を味わう音読。ポイントは読みの速さと人物の感情の変化です。

読み時間が10分を超える作品は、自分で思うより少しだけテンポを速めると、緩急がつけやすくなり読んでいて飽きが来ません。また、話の中で人物の気持ちが変わっていくので、セリフでその変化を出したいところです。

自分のための音読ですし、ちょっと演じてみても楽しいですよ。

さあ、声を出して心のじめじめを追い出しましょう!

『としょかんライオン』

ミシェル・ヌードセン 作 ケビン・ホークス 絵

福本 友美子 訳  

2007年 / 岩崎書店


今月の1冊~

読み時間5分をきりたい!

思わず一息で読みたくなる挑戦的な絵本

「これは のみの ぴこ」

あっという間に季節は初夏へ。私たちのやる気もどんどんアップ!となればいいのですが、大型連休の後は五月病対策が必要な時期でもありますね。そこで、今月は脳に刺激を与えてやる気アップにつながりそうな言葉遊びの絵本をご紹介します!

「つみあげ歌」ってご存知でしょうか。最初の文章につながるように一文、一行、1フレーズといった単位で少しずつ言葉が増えていく遊び歌の一種です。そういえば子供の頃、こんな風に住所を少しずつ長く言って遊びませんでしたか?

〇〇市×丁目→△△県〇〇市×丁目→日本国△△県〇〇市×丁目→地球の日本国△△県〇〇市×丁目→太陽系の地球の・・・これも「つみあげ歌」のようなものですね。

詩人の谷川俊太郎さんは、この言葉遊びが好きなのか、これまでに数冊のつみあげうた絵本を出版しています。中でも音読難易度が高いのがこの一冊。タイトルと同じ「これはのみのぴこ」から始まる短い一文にフレーズが少しずつ積み上がり、そんなところに飛ぶか?という展開を見せながら最終的には15行にわたる長~い一文になります。

これが、難易度の高い理由。人って、一つの文章は一息で読みたくなるようで、知らず知らず早口になったり息が切れるまで読み続けたりするんですね。そんな読み手の必死さをなだめるような和田誠さんの絵を見るとふっと力が抜けて、和田さんに見透かされてるなあと感じます。

目標タイムを決めてうんと早口で読むもよし、滑舌練習をかねて大きな声で口を開けて読むもよし、気づけば達成感も得られて気持ちがすっきり。こんな絵本の使い方もありかな、と思います!

『これは のみの ぴこ』

 谷川 俊太郎 作 

 和田 誠 絵  

1979年 / サンリード


今月の1冊~

読み時間7分30秒

新しい季節を開く色彩豊かな絵と友情の絵本

「ねことことり」

暖冬暖冬といわれながら急に冷え込んだりして、花の季節が待たれる岩手の4月。

春をちょっと先取りする花々と猫の瞳が印象的な表紙にひかれて選んだ絵本は、「日本絵本賞」や「親子で読んでほしい絵本大賞」にも選ばれた評価の高い1冊です。

主人公は赤い屋根の家で一人暮らす猫。こぶしの木の枝を束ねる仕事に明け暮れている猫のもとに、青い小鳥がやってきてある「お願い」をするとことから物語が動き出します。

毛並みや葉脈など細かな部分まで丁寧に描かれた美しい絵と、猫と小鳥がお互いの相手を思う気持ちに心がふわっと軽くなる絵本は、優しい声で読みたいですね。ポイントは「笑顔」で読むこと。

笑顔で、と言われると口角をあげることに必死になる方がいますが、唇よりも頬に意識を向けて。口角からこめかみにつながる大頬骨筋(だいきょうこつきん)を動かすようにほっぺたを持ち上げると明るく優しい声が出ますのでお試しください。

<音読のあとは>

もう一度絵をじっくり眺めて世界を広げられるのもこの絵本の魅力。

室内の様子から猫の性格や日常の暮らしぶりを想像したり、鳥の名前や庭に咲き乱れる草花の種類は何か調べたり。カギとなる「こぶし」も調べてみると異名や香りなどがわかり、興味深いですよ!

『ねことことり』

 たてのひろし 作 

なかの真美 絵  

2022年 / 世界文化社

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